日本初、翼竜類の新属新種命名

このたび、熊本県上益城郡御船町に分布する御船層群上部層*1(後期白亜紀*2)から産出していた「アズダルコ科*3」の翼竜の化石について、詳細な研究を行ったところ、他の翼竜の頸椎骨とは特徴が異なることから新属・新種であると判明し、「ニッポノプテルス・ミフネンシス(意味:御船産の日本の翼)」と命名されました。

なお、ニッポノプテルスは、国内で発見された体化石に基づいて初めて命名された翼竜です。

また、この成果は、中国 石河子大学、御船町恐竜博物館、ブラジル サンパウロ大学動物学博物館、熊本大学、北海道大学の研究チームによるものであり、論文は2025年3月に発行された学術誌「Cretaceous Research(クリテイシャス・リサーチ)第167巻」に掲載されました。

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概要

 日本の翼竜の記録は比較的少なく、白亜紀層からいくつかの断片標本が知られているにすぎません。この度、中国石河子大学 周 炫宇 博士、御船町恐竜博物館 池上 直樹 博士、ブラジルサンパウロ大学動物学博物館 ベガス ロドリゴ 博士、熊本大学研究開発戦略本部 技術専門員 吉永 徹 氏、元 熊本大学技術部 技術専門職員 佐藤 宇紘 博士、熊本大学大学院先端科学研究部 教授 椋木 俊文 博士、熊本大学 理事・副学長 大谷 順 博士、北海道大学総合博物館 教授 小林 快次 博士の研究チームは、御船層群産の翼竜化石標本を再検討し、CTスキャナーで得られたデータ等に基づいて、その系統学的位置づけを検証しました。その結果、この標本は日本産の翼竜としては、初めて新種として命名されるべきものであることがわかりました。また、この新種の翼竜は、翼を広げた時の幅が2〜3メートル、最大で3.5メートルに達した可能性があると見積もられています。モンゴルのチュロニアン期〜コニアシアン期の地層から産出している未命名のアズダルコ科の翼竜と最も近縁であり、後期白亜紀後半に北米に生息していた大型翼竜ケツァルコアトルスと同じ系統に属すると考えられています。

背景とこれまでの経緯

 アズダルコ科の翼竜は、最大の翼竜ケツァルコアトルスを含む翼竜です。後期白亜紀に出現し、アジア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカなど、世界中に分布を広げ、白亜紀末には大型の種が出現しました。
 翼竜の骨格は細く華奢なつくりをしているため、化石記録は多くなく、国内では、北海道、岩手県、富山県、石川県、岐阜県、福井県、兵庫県、長崎県、熊本県、鹿児島県から断片的な化石が知られているのみで、これまで国内で産出した化石に基づいて命名された翼竜はありませんでした。
 御船層群では、1990年に天君ダム下流で恐竜化石が発見されたことを契機として、周辺の地質調査と発掘調査が進められました。同年、天君ダム上流の太田川の河床で恐竜化石を含むボーンベッドが発見され、岩石の表層の化石が採集されていました。1993年にこの上流の化石産地近くの転石から翼竜の指骨が発見され、1996年に御船町教育委員会が熊本県の補助を受けて実施した「熊本県重要化石分布確認調査」において、この上流の河床の骨化石層から頸椎骨が発見されました。これまで、天君ダム周辺で実施された発掘調査では、この頸椎骨化石の他に前肢の指の骨が数点見つかっています。
 Okazaki (1996)は、九州初の翼竜化石として翼指竜類*4の指骨を報告し、Ikegami et al. (2000)は、頸椎骨化石をアズダルコ科属種不明として報告を行いましたが、当時は、化石記録が乏しく、系統関係を明らかにすることはできませんでした。

研究成果

(1) 第6頸椎骨と判明

 Ikegami et al. (2000)では、頸部の中間に位置する頸椎骨と考えられ、その後、Averianov (2014)やAndres & Langston (2021)では、特に根拠を示すことなく第4又は第5頸椎骨と解釈されていました。
 しかし、本研究ではケツァルコアトルスやウェルンホプテルスの第6頸椎骨に見られるように、側方の収縮が少なく、後関節突起*5間の椎弓板*6が正弦波状になっており、背面に膨らんでいる椎体*7後部や、かなり大きい後外関節突起*8をもつという組み合わせが見られることから、第6頸椎骨と判断できました。

(2) アズダルコ科の新属新種のものであることを解明

 本研究において第6頸椎骨には次の4つの固有の特徴があることが判明しました。

・後関節突起に独特な背側稜が発達する
・椎体の底部には前後方向に溝が発達する
・椎体後部の関節面は三角形を呈する
・後外関節突起は椎体の側方に伸びる

 これらの固有の特徴とその組み合わせから新属新種であることが判明し、Nipponopterus mifunensis (ニッポノプテルス・ミフネンシス)と命名しました。これは、体化石としては日本で初めて命名された翼竜となります。

(3) アズダルコ科として最古級の化石であり、白亜紀末のケツァルコアトルス等の大型翼竜と近縁であることが示された

 他の翼竜との系統関係を調べるために、204種の翼竜について533個の特徴を比較しました。その結果、ニッポノプテルスは、モンゴルで見つかっているアズダルコ科の翼竜と最も近縁であることがわかり、さらに、後期白亜紀に大型化する種が出現するケツァルコアトルス亜科に属することがわかりました。このなかまの翼竜としては、時代的に最も古いもののひとつです。

今後の課題と展望

 国内の翼竜化石の産出記録は依然として少なく、また、断片的なものに限定されるため、更なる化石の探索と収集が必要です。御船層群は、翼竜化石が複数産出している国内では希有な地層であり、更なる化石の発見が期待されます。

 

用語解説
*1:熊本市南方に分布する後期白亜紀の地層。河川や湖でできた地層。
*2:1億50万年前〜6600万年前。
*3:首が長い翼竜。後期白亜紀には大型化し、翼開長が10メートルを超える種類もいる。
*4:退縮した短い尾をもつ白亜紀末まで繁栄した翼竜のグループ。
*5:後方の椎骨と関節する突出した部分。
*6:棘突起と横突起間の骨。
*7:脊椎骨の円柱状の部分。
*8:椎体の後部の外側にある小さい突起。