御船層群から産出した恐竜の卵殻化石について
この度、熊本県上益城郡御船町に分布する後期白亜紀の地層(御船層群上部層、約9000万年前)から恐竜の卵殻化石2点が発見されました。これは、恐竜の卵殻化石としては九州初、後期白亜紀の恐竜の卵殻化石としては、国内初の報告となります。
この発見によって、御船層群が堆積した場所での恐竜の繁殖が示さました。
御船層群は、東アジアにおいて恐竜の卵の化石が産出している他の地層より地理的に海に近い場所で堆積した地層です。今回の発見によって、後期白亜紀の東アジアでは、恐竜の繁殖地が大陸の内陸部だけでなく、沿岸地域にまで広がっていたことが分かりました。また、御船層群の化石の多様さを物語るものであり、今後のさらなる発見も期待できます。
この発見については、令和5年2月4日に九州大学で開催された日本古生物学会において、当館主任学芸員の池上直樹博士がモンタナ州立大学ロッキー博物館のジョン・スカネラ博士と共に報告をおこないました。
なお、発見された化石は、次の日程で展示公開いたします。
○期 日:令和5年2月7日(火)から当分の間(研究のため展示を行わない日もあります)
○場 所:御船町恐竜博物館 常設展示室入口
○卵殻化石が発見された地層について
御船層群は飯田山を中心に熊本市の南側に広く分布している後期白亜紀の地層です。全体として約2000 mの厚さがあります。下位から、基底層、下部層、上部層に区分されています。基底層は主に扇状地でできた地層、下部層は河口から浅い海でできた地層、上部層は川や湖でできた地層です。このことから、海面の高さが上下することで、海になったり陸になったりするような地域、つまり、大陸の沿岸部であったと考えられます。
卵殻化石が発見された地層は、上部層です。川の底に堆積した地層から発見されました。御船層群には浅い海でできた地層が挟まれることから、日本や東アジアの他の恐竜の卵殻化石産地より、地理的に海に近い場所だったと考えられます。
御船層群の年代は、軟体動物化石から後期白亜紀セノマニアン期〜チュロニアン期(約9000万年前)と考えられています。
図1 恐竜の卵殻化石産地
○発見された卵殻化石について
第1標本(図2A、B)
大きさ:長さ:約 27mm、幅:約10 mm、厚さ:約1.7 mm
種 類:恐竜類卵 卵科、卵属不明
産出地:熊本県上益城郡御船町田代 天君ダム下流右岸の恐竜化石発掘現場(図1)
第2標本(図2C、D)
○部 位:卵殻
○大きさ:長さ:約25 mm、幅:約15 mm、厚さ:約2 mm
○種 類:スタリコウーリサス卵科 コラロイドウーリサス卵属類似
○産出地:熊本県上益城郡御船町田代 天君ダム下流右岸の恐竜化石発掘現場(図1)
図2 御船層群から産出した恐竜卵殻化石第1標本(A、B)及び第2標本(C、 D)の顕微鏡写真。A、外側面; B、卵殻断面(上が外側)。 C、外側面;D、卵殻断面(上が外側)。
○発見の意義
●九州の白亜紀層から恐竜類の卵殻化石を初めて確認
九州では、福岡県、長崎県、熊本県、鹿児島県の各県から恐竜の化石が見つかっていますが、これまで卵殻の発見はありませんでした。今回の発見は、九州地方における初の恐竜の卵殻化石の発見となります。
●東アジア沿岸地域で堆積した地層からの発見
御船層群上部層は、国内の他の恐竜卵殻化石産出層より、地理的に海に近い陸上で堆積した地層です。今回の発見は、恐竜の繁殖地が東アジアの沿岸地域にまで及んでいたことを示す証拠となります。
●後期白亜紀の恐竜の卵殻化石として国内初の発見
日本国内ではこれまで、岐阜県、福井県、石川県、兵庫県、山口県の5県から恐竜の卵殻化石が見つかっていますが、これらの地層はすべて前期白亜紀の地層であり、後期白亜紀の地層からは見つかっていませんでした(図3)。今回の発見は、国内初の後期白亜紀の恐竜卵殻化石の発見となり、新たな年代の化石は、恐竜の進化や生態の変化を解明する手がかりとなります。
図3 日本の恐竜の卵殻化石産出地(6カ所)。青い点はこれまでに恐竜化石が見つかっている地域。恐竜化石の産地と比較して恐竜の卵殻化石の産地は少ない。