【ノーベル賞2016】オートファジーってなんだろう?

【ノーベル賞とは】

人類のために大きな貢献をした人に与えられる賞。ダイナマイトの発明をした“アルフレッド・ノーベル”の遺言にしたがい、1901年から始まっている。物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済の6分野がある—

2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大学の大隅良典栄誉教授が発見した現象「オートファジー」。今回はこの「オートファジー」について紹介します。

「オートファジー」を理解するためには、「細胞」について知っておく必要があります。細胞とは生物のからだをつくっているとてもとても小さなもので、生物のからだはすべて細胞からできています。では、わたしたちの体をみてみましょう。

からだの表面をおおっている皮ふ。皮ふの断面をみてみると…中心に丸いものがあるものが細胞です。たくさんの細胞があつまって皮ふをつくっていますね。

皮ふを拡大してみると…
皮ふを拡大してみると…

からだの中ものぞいてみましょう。胸のなかには心臓があります。心臓を拡大していくと…ここにもたくさんの細胞がありますね。

 

心臓を拡大してみると…
心臓を拡大してみると…

ちなみに下の写真は、私のほっぺの内側からとってきた細胞に赤く色をつけた実際の写真です。

口腔上皮細胞(こうくうじょうひさいぼう)
口腔上皮細胞(こうくうじょうひさいぼう)

このように、人はたくさんの細胞でできています。[多]くの[細胞]からできている[生物]は「多細胞生物(たさいぼうせいぶつ)」とよびます。イヌやネコ、植物も多細胞生物です。一方、たった1つの細胞でできている生物、つまり [単]一の[細胞]からできている[生物]は「単細胞生物(たんさいぼうせいぶつ)」とよびます。細胞のもつはたらきをしらべるための研究には、よく単細胞生物が利用されています。大隅栄誉教授がオートファジーの研究につかったのも単細胞生物である「酵母(こうぼ)」。では、その酵母をつかってあきらかにした「オートファジー」とは—

オートファジーを一言でいうと『細胞が、細胞のなかの成分を分解するしくみのこと』。

さて、こんどは細胞のなかを拡大してみてみましょう。

細胞のなか
細胞のなか

いろいろなものが入っていますが、なかには不要なものもまざっていますね。不要なもの—古くなったタンパク質はなくしてしまいたいのですが、ほっとけば自然になくなるわけではありませんので分解をする必要があります。どのように分解されるかというと、まず古くなったタンパク質は壁のようなものにとりかこまれます。そこにタンパク質を分解できる道具をたくさんもったものがくっつき、分解をするための道具が注入されます。道具をつかって古くなったタンパク質は分解され、もういちど新しいタンパク質に作りかえられます。つまり古くなったタンパク質をリサイクルしているわけですね。この分解されるしくみを「オートファジー」とよびます。

不要なものが分解されるとき
不要なものが分解されるとき

ちなみに、古くなった異常なタンパク質が脳にたまってしまうと神経の病気(神経変性疾患(しんけいへんせいしっかん)。アルツハイマー病など。)の原因になると考えられています。オートファジーの研究によりこうした病気の予防や治療につながることも期待されています。

 

不要なものを分解する以外にも、栄養がたりなくなったときには「オートファジー」のしくみによりタンパク質が分解され、新しいタンパク質がつくられたり栄養にかえられたりします。つまり「オートファジー」とは、不要なものを分解するだけではなく新しい栄養をつくりだすという意味でもわたしたちが生きていくうえで欠かせないしくみなのです。

 

それではさいごに、こどもたちに向けた大隅栄誉教授からのメッセージを紹介します。

 

『いま、なかなか自分の興味を伸ばすことがとても難しい時代になっていると思います。「あれっ?」と思うことがたくさん世の中にはあるのですね。そういうことの気づきをとっても大事にしてほしいなというのが、小学生に言いたいこと。わかっているような気分になっているけど、実を言うとなにもわかっていないということがたくさん世の中にはある。生命現象には特にそういうことがたくさんあるので、「なんで?」ということをとても大事にする人たち、子供たちが増えたら日本の将来は安泰だと思います。』(2016/10/3ノーベル賞受賞会見 質疑応答より一部改変)

 

文・画像 富澤由規子

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