博物館と社会的処方

〜この記事は、御船町で発行している広報誌「令和3年度広報みふね11月号(第647)」に掲載された“学芸員の博物館日記”を一部改変したものです。[1]「広報みふね」は次のURLよりご覧いただけます。https://www.town.mifune.kumamoto.jp/hpkiji/pub/List.aspx?c_id=3&class_set_id=1&class_id=1103

2021年10月11日、当館にて学芸員研修会「恐竜博物館de音楽療法」[2] … Continue readingが開催されました。音楽療法[3]音楽療法とは、『音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身機能の維持改善、行動の変容、QOL … Continue readingと恐竜博物館…つながりがないように思えますよね。しかし…

音楽療法と恐竜博物館は、“社会的処方”というキーワードのもとにつながりがあるんです。


社会的処方(social prescribing)とは?

“薬を超えた解決策” ともいわれ、メンタルヘルスの不調があったり、社会からの孤立や孤独を感じたりしている方に対し、医師が薬の代わりに(または薬+αとして)地域の施設やコミュニティを紹介することで、心の療養や社会参加の機会を促す取り組みです。

イギリスでは社会的処方の一部として、医師[4]プライマリ・ケアを実践する一般医または家庭医など。イギリスではGP(General Practitioner) とよばれている。が患者へ、博物館や美術館への訪問や学習プログラムへの参加を促したり[5]University of Leicester, Museological Review: What is a museum today?, Issue24, 2020, p.67~、コミュニティーセンターや教会のホール、図書館などを紹介したりすることがあります[6]令和元年度高齢社会白書, トピックス4 イギリスの「社会的処方」~GP(一般医、家庭医)による社会参加と地域づくりの推進~, 内閣府, 2019。イギリスだけでなく、オランダや北米でもこの取り組みは広がっており、医療の専門家等と連携して患者のためのプログラムを開発・提供している博物館・美術館もあります[7]美術館が「治療」の場に、北米で広がる社会的処方の取り組み, https://forbesjapan.com/articles/detail/24843/1/1/1, 2019

日本でも、博物館や美術館でリラックスする感覚を“博物館浴” と名付け、鑑賞や活動の前後における体と気持ちの変化を測定してデータを蓄積し、医療効果としての有効性を示そうという取り組みがされています


今回の研修会のテーマは音楽療法ということで、恐竜の骨格標本を観察した後、実際に2 分程度の音楽をグループで創作しました。個人で得たイメージを他の人と共有することで自分とは異なる見方に刺激を受けることもあれば、「歯のするどさ」を表現する音ってどれだろう…と考え、相談しながら音にして表現していくと、新しい発見や楽しさがありました。また、博物館浴の効果実証研究のため、これら活動が心と体にどのような変化をもたらすのか、血圧・脈拍を測定したり気分状態を評価する質問に答えたりしました。

研修会の様子1:使用した楽器です。音楽に自信がなくても大丈夫!自由に奏でることが大切です。
研修会の様子2:トーンチャイムという楽器です。初めて目にしました。
研修会の様子3:学芸員によるギャラリートークの様子です。
研修会の様子4:観覧しながら対象となる標本を選定し、その音をイメージします。
研修会の様子5:音をイメージした展示の前で、実際に演奏をしました。

 

高齢化社会や地球環境問題といったさまざまな社会課題に対して博物館ができることを積極的に探し、それらの課題に対して働きかけることも、博物館の大切な役割のひとつ。新しいことにもどんどんチャレンジして、博物館活用の新たな可能性を見出していけたらと思います。

文・写真 富澤 由規子

References

References
1 「広報みふね」は次のURLよりご覧いただけます。https://www.town.mifune.kumamoto.jp/hpkiji/pub/List.aspx?c_id=3&class_set_id=1&class_id=1103
2 この研修会は、令和3年度文化庁「大学における文化芸術推進事業」の一環として、「2042年問題」解決に向けた社会資源を活用した「健康寿命」増進プログラム開発とリンクワーカー人材育成事業実行委員会(九州産業大学美術館ほか)の主催により開催されました。
3 音楽療法とは、『音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身機能の維持改善、行動の変容、QOL の向上などに向け、音楽を意図的、計画的に使用すること』です(日本音楽療法学会の定義:日本音楽療法学会HPより)。
4 プライマリ・ケアを実践する一般医または家庭医など。イギリスではGP(General Practitioner) とよばれている。
5 University of Leicester, Museological Review: What is a museum today?, Issue24, 2020, p.67~
6 令和元年度高齢社会白書, トピックス4 イギリスの「社会的処方」~GP(一般医、家庭医)による社会参加と地域づくりの推進~, 内閣府, 2019
7 美術館が「治療」の場に、北米で広がる社会的処方の取り組み, https://forbesjapan.com/articles/detail/24843/1/1/1, 2019

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