望ましい岩石指導

                             堀 川 治 城

講演要旨
図2 岩石鑑定テスト(安山岩)の正答率
1 教科書における火成岩・堆積岩の取り扱い
 今の子供たちにとって石はあまり関心のないものになっている。地球は地表の植物、土砂を取り除けば岩石でできており、この地殻の岩石についての理解を深めることは、大げさに言えば自然観を育てることにもつながる。
 「中学校理科の指導」に載っている資料(配布資料:火成岩の指導。中学校理科の指導、文部省(1966)、p202?213)を配布した。岩石の指導について科学として生徒がわかる資料になっている。それと、岩石の指導に当たっては「岩石も地球を循環している」という考え方を指導者が持つと、学ぶ側も面白いと思う。物質の循環と同じ考え方である。
 私は昭和43年から教壇に立っていたが、そのころは変成岩も含めて指導していた。教科書の口絵には変成岩、鉱物まで載せられていた。昭和50年代の後半からは、学習指導要領改訂でそれまでの内容が軽減され、「火成岩に含まれる鉱物の割合」の表も診(み)にくくなっている。自分の指導を振り返ってみると、当時は岩石の密度が表中に載せられていたので、1分野の密度を測る実験(固体の体積を計り密度を求める実験)で岩石・化石も測定するものに入れていた(いずれ高校などで「地殻の構造」の学習の際に学ぶ)。地学サークルの人が「そんなことをするのか」といっていたが、生徒の関心が薄い内容にはそれなりの手立てが必要と思っていた。ほぼ同体積の火成岩を両手に持って重さを感覚的に比べてみると、流紋岩(白っぽい岩石・密度2.7)と玄武岩(3.2)ではわかる気がするものである。一般の方でも水銀や鉄などの密度の数値を大人になって、仕事にも関係ないのに知っている人は少なくないものであろう。地学では他の分野の内容をいろんな場面・内容で指導に生かしていることは、今、指導している皆さんがご存知のとおりで、地学は総合的な学問という思いに立つと指導法の視野も広がるのではないだろうか。
 その後、平成元年、平成10年と改訂があり、時数削減のあおりを受けて指導内容が減ってきて、現在のような教科書になっている。記載内容が中途半端で、教科書だけ読んでも分りにくいし、簡略化されていて、内容によっては科学的に教えることが難しいと感じている人もいるだろう。今回の改訂では、理科は21年度から先行して取り扱われるが、どんな教科書になるのか興味津々である。
2 岩石の調査と問題点
 熊本地学会誌69号に「岩石の調査と問題点〜適切な標本と着眼点の指導が望まれる〜」を載せている。他校に出向いて岩石命名調査をするという面倒なことをしたのは、自分で指導しながら、定着度は高くないと思っていたからである。調査対象者は、中学校三校3年生(90人)と熊大教育学部2年生(文系80人)である。方法は、先述の「火成岩中に含まれる造岩鉱物の組み合わせ表」と「堆積岩の分類表」に( )内を埋める問題をペーパーテスト形式で実施し、既習事項を確認した後、21個の岩石標本を与えて命名させるものである。調査結果について、概略を述べると、
①ペーパーテストでは正答できても、実物標本では正答できない生徒・学生が多かった。
②調査結果の予測では、多分大学生のほうが大差をつけて正答率が高いと思っていた(公立中学校では成績上位)が、中学生、大学生とも実物標本テストの正答率に大差はなかった。さらに誤答の傾向にも共通点があった。このことは、中学生でも岩石の判別はできることを示しているし、大学生では岩石観察の経験がその後なかったのか、あるいははじめて指導を受けたとき成因についての理解がなかったことを示していると思った。
③調査結果をみて問題点をあげると、火成岩では、流紋岩と玄武岩の正答率が低い。これらの火成岩は、石基や斑晶の識別がポイントで、玄武岩にはかんらん石の斑晶があること、流紋岩には黒ウンモが見えることなどである。岩石の観察法(粒に着目)、観察の着眼点について適切な指導がなかったのだろうと思った。
④堆積岩ではチャートと凝灰岩の正答率が低い。これらについては岩石の特徴が現れている標本、生成過程がわかる標本を使っての観察と指導が必要である。石灰岩についても同様のことがいえる。
⑤調査結果についてまとめていうと、岩石の指導に当たっては、より典型的な標本を用意し、着眼点の指導が必要である。たとえば、安山岩の指導で石基と斑晶がはっきり区別できる標本で指導し、見方がわかってきたら、典型的な標本以外の岩石を観察させるなどの配慮があると、理解が深まるのではないかと思う。
どんな内容の指導でもいえることだが、学ぶ側からすると、はじめて指導を受けたときの理解が重要である。「この鉱物を含んでいるからこの岩石である」、というような命名の理由がいえる生徒を育てたいものである。
 最後に、実物標本調査のとき、安山岩は産地の異なる4つの標本を用意した。教材として使用する標本次第で、これほど正答率が違うという結果(図2)は、私たちに「きちんと教えて!」といっている学ぶ側の声のようである。私も同様であったが・・。